概要
毎年秋から冬にかけてセンターが企画・運営をしている医療通訳養成講座ですが、今年は1/16、17の日程でひと・まち交流館京都にて開催しました。16日午前は東京SP(模擬患者)研究会代表の佐伯晴子先生をお招きし、基調講演「患者の視点からみる医療コミュニケーション」を、16日午後から17日にかけて今回は医療通訳者養成講座を基礎コースと実践者コースの2つのコースを設けて同時開講しました。講座の参加者は49名(うち基礎34名、実践15名)で、募集直後から申込みが殺到するほどのご好評でした!
内容
◆医療通訳者養成講座
日時:2010年1月16日(土)10:00-16:00、17日(日)10:00-17:00
会場:ひと・まち交流館きょうと
参加者数:
医療通訳実践講座 基礎編 34名
医療通訳実践講座 実践編 15名
講師(敬称略)
基調講演(1月16日 10:00-12:00)
「患者の視点から考える医療コミュニケーション」
佐伯晴子(東京SP研究会代表)
医療通訳実践講座
渡辺恵美(診療放射線技師・医療通訳事業アドバイザ)
田中實(滋賀県立精神医療センター 検査科技師長)
横川由美子(京都橘大学看護学部准教授・医療通訳事業アドバイザ)
神原順愛(中国語ロールプレイ講師)
梁愛齢(ハングルロールプレイ講師)
崔珍溶(ハングルロールプレイ講師)
渡辺リンダ(英語ロールプレイ講師)
重野亜久里(多文化共生センターきょうと代表)
高嶋愛里(看護師・医療通訳コーディネイタ)
政宗敦子(医療通訳コーディネイタ・医療通訳者)
篠田早苗(看護師・多文化共生センターきょうとスタッフ)
*基調講演
医療通訳者は患者と医療者との間のコミュニケーションをサポートするだけでなく、病院の待合など、患者と一対一でコミュニケーションを取る場面も少なくありません。また、病院で活動する上で、医療者とのコミュニケーションも、避けては通れません。通訳者にとって語学力や通訳技術は勿論大切ですが、患者や医療者との信頼関係を築くこともまた、重要です。
医学教育では、患者と医療者が円滑なコミュニケーションをとるためのトレーニングとして、「シュミレイテッドペイシェント(SP模擬患者)」があります。東京慈恵会医科大等でこのトレーニングを行っている佐伯先生より、病院で患者は何を思い、どう感じているのか、私たちが患者として病院を受診する際、感じる違和感についてお話しいただきました。
また、多忙な医療者の実情や、医師の7割が患者に「きちんと説明した」との認識に対し、患者の3割にしか「きちんと説明してもらった」と思っていない認識のズレなど、医療者側からのお話もいただき、このような医療者と患者のコミュニケーションをサポートする通訳者の立ち位置について考えました。
*医療通訳実践講座 基礎編
医療通訳現場で通訳者として活動するために必要な基礎を学ぶとともに実践力を身につけることを目指し、在日外国人の現状や基礎的な医療知識(検査)・通訳技術、姿勢(倫理)などについて、ロールプレイやワークショップを交えて学びました。医療知識では、検査技師を講師に迎え、検査の種類やながれなどについてお話しいただきました。講座の最後には、受付から待合室、診察室、問診、会計、薬局といった一般的な病院受診の流れを通訳者として体験するロールプレイを行いました。
*医療通訳実践講座 実践編
実践コースでは、通訳者としてもう一歩ステップアップしたいと考えている方、通訳経験のある方を対象に、医療通訳者としての実践力と対応力を身につけるため、妊娠出産に関する制度の説明、検査の指示、告知など通訳者としての対応が難しい通訳場面など、日頃現場で活動する通訳者が難しい、と感じる場面を想定したロールプレイを中心に行いました。妊娠出産に関する制度は、病院だけでなく、区役所や保健所など関連する機関も多く、非常に手続きや説明が複雑ですが、最近医療通訳の需要の増えている場面です。検査では、通訳のタイミングが非常に重要かつ通訳者が患者とは別の部屋から通訳を行わなければいけない、胃透視の場面を行いました。
講座の最後は、告知という難しい場面においての通訳のロールプレイと、シリアスな場面に遭遇した通訳のセルフコントロールをあわせて学びました。どのロールプレイも患者役ロールプレイ講師の白熱した演技によって、臨場感あふれる講座になりました。
◆医療通訳者選考会
日時:2009年2月20日(土)
会場:京都市国際交流会館
内容:筆記・面接・通訳テスト
対象言語:中国語
受験者:14名
選考会通過者 4名
評価
当事業は医療通訳派遣事業の周知、新たな医療通訳者の養成、現行登録通訳者のスキルアップを目的に実施しています。昨年は5回に分けて実施しましたが、長期的講座は全参加が難しいこと、できるだけすべての講座を受けてもらいたいとこ、まとめて1回の開催の方が参加者の確保や事務局の候補や事務が短期間ですむことなどから、二日間20時間の集中講座を行いました。そのため京都だけでなく海外からの参加や東京や福井など遠方からも泊まりがけで参加する方もいました。また、これまでは参加者のレベルを日常会話以上ということで設定していましたが、参加者の語学レベルや経験レベルに差があり、どちらかの参加者に合わせて講座を進めると、いづれかの参加者には不満が残るものになってしまったり、講師もすすめにくいという問題点がありました。
そこで今年は、通訳や医療通訳の経験のない参加者を対象とし、講義を中心とした基礎コース、通訳経験者や通訳スタッフを対象とし、ロールプレイを中心とした実践コースの2つのコースを設置したため、各コースの参加者間に大きなレベルの差が生じませんでした。しかし同時開催にしたため、運営が大変であったこと、選考会通過者4名のうち3名が基礎編に参加であったことから、次年度は基礎と実践を日程を分けての実施がよいと考えています。
本年度の講座では基調講演以外は基本的に外部講師にお願いをしませんでした。これまでの多文化共生センターの講師派遣のノウハウや蓄積を活用し、通訳コーディネイターやアドバイザーを講師として実施しました。講座の内容が実際の現場課題や事業課題から教材を作成していること、他地域の養成講座企画や講師派遣の豊富な経験のある講師が担当したこともあり、多くの参加者からな実践的な内容だったと大変好評でした。また韓国の大学で医療通訳を養成している講師も参加しており、講座参加をきっかけに次年度は韓国の学生の研修を受け入れることになりました